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『失敗しない遺言と相続』
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■体験談「3つのお手玉」
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夏のある日、興奮した様子の50代の男性が、私の事務所を訪ねてきました。
「実は、半年前に亡くなった母の遺言書の用紙に、こちらの事務所の名前が書かれていたので、何かいきさつがわかるかもしれない、と思って伺ったのです」と、額の汗をハンカチで拭いながら、こんなお話をされたのです。
これといった財産もなく、質素に暮らしていた母が遺言書を残していたなんて、亡くなった当時はビックリして、兄弟で顔を見合わせたものでした。しかも、財産はいまにも破れそうな古布のお手玉が3つ。遺言書には、ただ兄弟3人宛に1つずつ残す、と記されているだけでした。
わざわざ、お手玉のために遺言を残したのかと、少々呆れましたね、正直なところ。そこで妹が、お手玉1個では遊べないからと、長男である私の娘に手渡したのでした。
ところが昨日、そのお手玉で遊んでいた私の娘が、布が破れてこんなものが出てきた、と緑色の石を私のもとに持ってきたのです。きれいな緑色をしたこの石は、どうもヒスイのような感じがしました。慌てて残り2つのお手玉を調べたら、無色透明な石と赤い石が出てきたのです。もうビックリするばかり。
そこで、デパートの宝石売り場に勤める弟に、昨夜見てもらいました。無色透明な石はダイヤではなくトパーズみたいだし、赤いのはルビーではないか、と言うのです。連絡を受けて慌てて飛んできた妹を交えて、「いったい何で、お手玉に宝石が入っていたのだろう。貧乏していた我が家に、こんな宝物があったのは不思議だ」と、いろいろ話し合いましたが、思い当たる節がまったくないのです。そこで、母の遺言書を改めて見てみると、こちらの行政書士事務所の便箋に書かれていることがわかりました。
宝石は、今日にでも弟がプロに鑑定してもらうことになり、私は遺言のいきさつが少しでもわかればと、こちらに伺ったのです。
この話を聞いている途中、私は2年前の出来事を思い出していました。
70代半ばのご婦人(Aさんとします)が訪ねてきて、「遺言をつくりたいのです。私には、子供たちに残してあげられる財産は何もないのですが、古いお手玉を残したい」と言うのです。私は、驚きと半信半疑でAさんのお話を伺ったことを、いまでも鮮明に覚えています。
Aさんの家は、子供のころ大変貧しくて、友達がおもちゃを買ってもらっているのに自分だけ買ってもらえないで、泣きながら母を責めたと言います。
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